「なんかこういう話があるようなので、少し思い出語りでもしようか」
「では、どんな話をするんだい?」
「少しSFの話を」
「まずはどんなことから?」
「そうだな。ヤマトはアニメ描写の宇宙の正確さを飛躍的に上げた。突っ込みどころは多いのだが、それでも当時としては破格にあがった。太陽系内の天体はほどんど既知だし、逆に別の恒星系の惑星は全て架空だ。当時はまだ別恒星系の惑星は確認されていなかったからだ。その流れはガンダムの登場で加速する。スペースコロニーは科学的に提唱された宇宙移民プランの構想がそのまま使用されているし、地球と月の間でほとんどの話が進行するのもリアリティが高い」
「でもさ。AMBAC機動って嘘くさいぜ」
「ファーストガンダム放送時、そんな設定は存在しないのだ」
「ぎゃふん」
「まあそういうわけだから、【荒唐無稽の嘘800】という批判をかわしてアニメを社会に認めさせるには、【科学的な正しさ】を持ってくるのは1つの良い戦略だったわけだ」
「それで?」
「だから、そこに固執するアニメファンがけっこう多かった」
「科学的に正確であればあるほど良い作品である、と言う価値観だね」
「そうだ。そして彼らは勘違いしてSF大会に来た」
「何がどう勘違いなの?」
「SF大会は、基本的に小説SFのイベントであって、既に長い歴史があった。創生期は1940年代。50年代がSFの黄金期であって、それから遅れて日本にも来た。60年代のニューウェーブも70年代には既に過去。黄金期の50年代SFへの批判も、それに対するアンチテーゼも全て出尽くしていたのが1970年代末だ」
「それで?」
「その時点で既に科学的正確さに重点を置くハードSFも、荒唐無稽なスペオペも出そろっていた」
「ふむふむ」
「そこに、勘違いしたアニメファンがなだれ込んできたのだ」
「科学的な正確さを重視するアニメファンだね」
「でもね。ヤマトガンダムの科学的な正確さなど、本物の学者が余技で書いているようなSFの前ではゴミのようなものだし、かといってSFファンはスペオペも好きで科学的に正確ではないとしても、面白ければ良いと思っている人も多かった」
「若すぎるアニメファンは馬鹿にされたわけだね」
「そもそもね。アシモフ、ハインライン、クラークあたりが基本、日本人作家なら、小松左京、星新一、筒井康隆あたりが基本。映像作品なら少年ドラマシリーズや東邦特撮映画の長い歴史が前提にある集団に来て、ヤマトガンダムしか知識が無いとしたら話が分からないよ」
「なんてことだ。だから排斥されたの?」
「排斥というか、来る場所を間違えているという扱いだね。アニメファンが行くべきイベントはここではない」
オマケ §
「興味深いのは、上記まとめに含まれるこれ」
現代では、ロボットアニメに対して「科学的におかしい」とか「SFではない」なんて文句をつけるSFファンなんて、まずいないはず。いたら「生きた化石」と嘲笑してやれ(笑)。
「どこがどう興味深いの?」
「ここでは話が微妙に捻れている」
「どう捻れているの?」
「どうも【SFとは科学的正確さである】という方向に話が捻れている」
「どういうこと?」
「ロボットアニメ好きにも、科学的には正確ではないと思っている人は多い。そういう意味で、科学的におかしいと公言するロボットアニメ肯定派のSFファンは普通にいくらでも存在するだろう」
「なるほど」
「そもそも【ロボットアニメはSFではない】という言い方をしたとき、それは何を指し示しているのか。巨大ロボットがチャンバラやって侵略者を倒すだけのアニメなら、それはどこもSFじゃないだろう」
「分かった。必要条件と十分条件の差だ。ロボットが出たことでそれはSFではないと言い切れるわけではないが、ロボットが出るアニメの全てがSFとは言えないわけだ」
「そうだ。昔からよくある話だが、ロボットが出たらSFなのか、宇宙船が出たらSFなのか、UFOが出たらSFなのか」
「そこが必要条件と十分条件の問題に直結するわけだね」
「そうだ。UFOが出てくるSFがあっても良いが、UFOが出ればSFとは言い切れない。戦艦は架空戦記の花形だが、戦艦が出てくる本の全てが架空戦記というわけではない」
「架空じゃない戦記にも戦艦が登場するわけだね」
「そういうことだ」
「つまり、ロボットが出ようと出ないとしても、それはSFがSFである判断とは本来直接関係が無いはずなのだね」
オマケ2 §
「結局、ロボットアニメの害とは発想の硬直化そのものだ」
「頭が柔らかければロボットでもいいわけだね」
「必然性があればロボットを登場させると良いよ」
「必然性が無くてもロボットを出す行為が発想の硬直化だね」
「それは受け手にもある」
「なんでヤマトはロボットに変形しないんだろうって思った人もいるわけだね」
「ヤマトが空を飛んだ時点で既にかなり飛躍しているのに、それ以上ロボットにする意味なんてない」
「飛躍のしすぎは分かりにくさを産むだけなのだね」
オマケIII §
「余談だが」
「何が余談だい?」
「このマンガね。少し書き直してある」
「それで?」
「最後に【帰還を望む】という形で締めくくられている。多くのオタクはこれを【憎らしハードSF者を撃退して喝采】と読んでいるが、実は徳光先生はこの男に帰ってきて欲しいと思っている」
「それはなぜ?」
「同じレベルの土台の上で語れる相手が欲しいからさ」
「そうか、そしてこの話に回帰するのか」
「ロボットアニメ好きにも、科学的には正確ではないと思っている人は多い。そういう意味で、科学的におかしいと公言するロボットアニメ肯定派のSFファンは普通にいくらでも存在するだろう」
「徳光先生とその分身であるおたく先生も、ロボットの非科学性は肯定していると思う。でも、好きならそれでいいのだ。そこにワンダーがあるならね」